小さい頃の世界
幼稚園に入る時期、父方の実家で祖父母と同居することになった。
祖父母、父母、弟、叔父の7人。
赤く錆びた門扉、集合写真みたいに並んだ盆栽、和室の壁に掛かっていた般若面。
家は古いにおいがして薄暗く、湿気が多かった。
梅雨の朝方は洗面所へいくと、大量のなめくじがスノコの上を這っていた。
家の裏手には雑草が伸び放題の土地に廃屋があった。
窓を開けているとカマキリやバッタ、ブイブイなんかが入ってきた。
近所の家が子犬を飼いはじめた。
飼い主同様にうるさい子犬は放し飼いされ、弟が噛まれた。
噛まれたことがなくて怖い気持ちが余計に膨らんだ。
近くの壁を素早く登ることが自然と身に付いた。
野良犬もいくらかいて、そのうち尻尾が2本あるのがいた。
白く長い毛が目を隠しているその犬は、他に比べてあんまり吠えなかったように思う。
2本目の尻尾は赤黒く、1本目の尻尾の下に生えていた。
白い犬を見かけなくなった。
特に気に留めることもなかったけど、あるとき思い出して大人に聞いてみた。
ずっと前に田んぼの脇で死んでいたらしい。
犬が横たわっていた場所を通り過ぎるとき、ふと思い出した。
見つかった時の様子を想像してみたことがある。
すこし、かわいそうな気がした。